ここで意図されているのは、伝達ではなく、伝達の断絶です。意味ではなく、無意味です。人間的な言語の使用域を越えた何かを伝達するために、無意味を突き付けざるを得ない、異形の言語使用です。少なくとも我々が日常生活で、伝達の道具として言語を使用している限りではほとんど接することのない、おそらくは一生耳にしないであろう使い方です。言語使用の目的を、語と意味をかっちり組み合わせて狂いなく受け手の頭に流し込むという伝達に限定する限り語ることのできない事柄を、文学はしばしば扱うという、これは一例です。
—佐藤亜紀.(2006).小説のストラテジー.青土社.16