人に何か伝えようとするなら、わかりやすく箇条書きしてチラシにでも書いて配れば充分でしょう(それさえも文学であり得るとは思いますが)。わざわざ詩にしたり、小説に組み上げたりする必要はない。物語を読み手の頭に流し込みたければ、粗筋だけをできるだけ短く纏めればいいのです。それをわざわざ小説に書き延ばすのは、物語を伝えようとするからではなく、物語を場面に展開し、人と人、人と物、人と事を出会わせ、そこで起こる運動に言語による変速を加え、移行やコントラストで固有の形を作り出したいからです。
—佐藤亜紀.(2006).小説のストラテジー.青土社.17-18